奈良に伝わる幻の大豆、それが『大鉄砲』(おおでっぽう)です。
その名の通り「大きな粒」で甘みが強いのが特徴。
今もなお、地元農家さんが「お味噌にするとおいしい」と、先祖代々種を受け継ぎ自家採取されている在来大豆です。
もともとは、田んぼの畔(あぜ)で稲(米)と一緒につくられていたが、稲の品種改良で収穫期にズレが生じたこと、軸が太く苦労したことなどが理由で、次第に作る人が減っていったと考えられます。
また、高度経済成長とともに大阪などの都市部へと人が流出し、農業の高齢化も進み、
作業効率や生産性が重視され、時代の流れとともに消滅の一途を辿っている、まさに幻の大豆です。
2016年秋、地元奈良で大豆をつくってくれる農家さんを探し始めました。
これが田原本町の鎌田ファームの鎌田さんとの出会いです。
当初は「奈良県産大豆」であれば何でも良いという考えでした。
歴史的にも奈良県は大豆づくりが盛んな地域ではなく「奈良県産大豆」というだけで貴重な存在だったからです。
そんな折、奈良に在来大豆があったことを知りました。その名は「大鉄砲」。
魅力的な名前、今も県内のどこかで栽培されている可能性、今はないという事実、見たことも聞いたこともないこのミステリアスな大豆に一瞬で心を奪われました。
「この大豆で豆腐をつくってみたい」
次は種探し。
そこから数か月後の2017年初春、念願の大鉄砲の種を見つけました。
初めて目にする大鉄砲の種はわずか10kg。大きく輝いているように見えたことを覚えています。
そして、豆腐になるかどうかもわからないこの大豆を、2017年7月中旬鎌田さんと一緒に畑に蒔きました。
大きな葉っぱに大きな背丈、そして太い茎、上から下まで満遍なく付く大きなサヤ。
それはまぎれもなく在来種の姿形でした。
同年12月、収穫した大鉄砲で初めて豆腐をつくりました。
「甘い」今まで食べた豆腐と比べものにならないほどおいしい。
「これだ」
大鉄砲の可能性を五感で感じた瞬間でした。
豆腐屋と農家で大鉄砲の種を蒔く。
雨を喜び、発芽に感動し、成長を見守り、台風を心配し、枝豆の美味しさに舌鼓を打ち、収穫を祝う。
今では毎年の恒例行事となりました。
2019年2月、奈良で守ることを目的に「大和大鉄砲」(やまとおおでっぽう)という名称で商標登録をしました。
『可能性は無限大』これは大豆の花言葉です。
近い将来「味噌」「醤油」「きな粉」など日本の伝統食にも拡げて行きたいと考えています。
この種を次世代に繋ごうとする私たちの取組みは、まだまだ始まったばかり。
『大和大鉄砲』が奈良を代表する作物のひとつになることを夢みて、これからも活動を続けて行きます。
豆腐屋として大豆一粒一粒の「ありがたさ」に感謝することを忘れずに。